ウルル・カタジュタ国立公園(オーストラリア)

voyagesウルル展望台

Uluru-Kata Tjuta National Park (Australia)  OUV (ⅴ)(ⅵ)(ⅶ)(ⅷ)

1987年世界自然遺産登録 1994年世界複合遺産に変更

◇二万年前から今なお続く先住民の記憶の大地

オーストラリアのほぼ中心、ノーザンテリトリー準州に位置する、世界最大級の一枚岩ウルル(エアーズロック)と、ドーム型の奇岩群カタジュタ(マウントオルガ)がそびえ立つ国立公園が世界遺産に登録されています。

オーストラリアの中心部はほとんどが砂漠です。砂漠と言っても砂丘ではなく、赤茶けた砂に、背丈の低い草木が地平線の先までどこまでも広がる荒野のよう。そこに地表に突き出た東京タワーとほぼ同じ大きさの岩があれば、昔の先住民もそれを敬い、崇め、歌にしたに違いないと思わされます。

地平の先まで同じ景色が続くため、「何もない」と誤認しがちですが、約170の鳥類や、トカゲ類などが生息し、植物はマメ科のアップサイドダウンスプラウト、マツバボタンの一種のパラキーヤなどが自生し、その生物相は実に多様。一つ一つに目を凝らすとそのことに気づきます。

国立公園内の世界最大級の一枚岩は約5億年も前の地層が隆起してできたとされ、1987年に自然遺産として登録。

一方先住民族のアナングにとっては、その岩や周辺に彼らの神話や生活が描かれた壁画が残されており、二万年前から続く狩猟の生活や文化的観点が今も残されていることから、1994年に複合遺産として再登録されました。

アナングを含めたオーストラリアやトレス諸島の先住民を総称してアボリジナルピープルと呼び、彼らの生活についてはコチラの記事を参照ください。

◇アナングの人々

ウルル・カタジュタ国立公園はとにかく広大で、ウルルとカタジュタの間も車で45分ほどかかる距離。この二つの岩山を結ぶ東西に長方形に囲んだ範囲が世界遺産に登録されています。

一説には太古に降り積もった堆積層が地殻変動で地表に両端が浮き上がってできたそうで、つまり地下でこれだけ離れた二つの岩は繋がっているのだとか。

国立公園から車で15分ほど外れたところに、ホテルが4, 5とショップやカフェ等が広がるvoyagesリゾートと、これを運営するスタッフやアナング住民の村があります。これらのリゾートと村から、最も近い町が、アリススプリングスと言い、なんと車で5, 6時間!外界から閉ざされた世界と言っても過言ではありません。

この地域に住むアナングはピチャンチャジャラ族とヤンクニチャジャラ族という2つの部に分かれます。

彼らには、チュクルパという共通の教訓・教え・法律が息づいていて、すべての命あるものに通底しているものとされています。ですから、我々でいうと法律は人間の範囲で考えがちですが、彼らは人だけでなく、植物、動物、そして大地とも繋がった考えなのです。

ウルルの伝統を今に伝えるアナング族は、世界の始まりに祖先がこの景観を創造したと信じ、太古の昔から聖地を守ってきました。

ところが、西洋から様々な来訪者が訪れ、二万年間穏やかだったアナングにとって生活が一変したのです。

1985年10月26日、オーストラリア政府はこの地域を国立公園としてアナングから99年という期限付きで借り受ける契約を結び、チュクルパとして管理していくことになります。

アナングにとっては歴史的な転換期となり、これをハンドバック(hand back=手に戻る)と呼んでいるそうです。

野焼きの跡。かつては先住民によるものでしたが、今は村の消防隊が隔週で火をつけているそうです。

<Uluru>Ayers Rock

ウルルの創世神話(ドリームタイム)における重要な要素として、地域にすむ様々な動物や植物が登場するそうです。

マラ・ウォーク(Mala Walk)、クニヤ・ウォーク(Kuniya Walk)と呼ばれる麓散策は、そうした神話から付けられた名前になっていて、観光ルートになっています。

例えば、マラとは北と西からやってきたもの、という意味で、それは時にカンガルーであったり、アナングにとっての祖先であったりします。

なお、ガイドさん曰く、ウルルのあたりでカンガルーは多くなく、特に近年は年に1回見られれば良い方だそうです。カンガルーグラスというカンガルーが食べられる柔らかい木も生えているのですが、残念です。

他にも、麓を歩くと、遠くからは単なる岩にしか見えないものが、丘(タリ)であったり、森(プチ)、水場(カル・カピ)、そして時には小川が流れた跡などを見ることができます。

なお、かつてこの地では、ウルルの岩山に登るというアトラクションが観光客向けに行われていましたが、2019年10月26日にピチャンチャチャラと政府との登山禁止の取り決めを適用し、全面的に登山禁止となりました

その経緯や現在の様子はコチラのコラムを参照ください。

<Kata tjuta>Mt.Olga

カタ・ジュタは36のドーム状の岩から成り、これらの岩が20km以上に渡って広がっています。マウントオルガと名付けたのは、西洋人で最初に発見したとされる探検家アーネスト・ジャイルズが、パトロンであったドイツ人からの助言で、ドイツの女王オルガに敬意を表して名付けられたとされます。

観光では「風の谷」「ウォルパ渓谷」など一部のみ散策が可能で、大半が写真撮影も禁止されています。

一説には、風の谷はナウシカのモデルになったとも!とも言われているそうですが、実際は名前がたまたま一致しているだけだとか。

ただ、個人的にはスピニフェクスという日本のススキのような草原が広がる世界が一番好きなのですが、これも映画のワンシーンに登場してきたような気もしています。朝日が当たると黄金のように輝き、赤茶けた荒野に光が差します。

カタジュタ国立公園 ウォルパ渓谷 散策路
カタジュタ国立公園 ウォルパ渓谷 散策路の最奥
カタジュタ国立公園 スピニフェクスの草原
カタジュタ国立公園 展望台からの景色

◇Voyagesのサステナビリティ

ウルルを観光で訪れると、必ずと言っていいほどお世話になるのが、Voyages Indigenous Tourism Australia という会社です。2025年現在、彼らがこの地域で唯一存在するホテルリゾートを運営し、またアナングの人々へ雇用と観光客への伝統文化の啓蒙、そして環境配慮に貢献しています。

その中心を担っているのが、彼らが管理するアナングコミュニティ財団です(その前進は、もともとのエアーズロックリゾート運営者であるVoyages Hotels and Resortsによって、2003年に設立されたムティジュル財団)。

この財団の支援は、ウルル近辺だけでなく、南オーストラリア州、西オーストラリア州、ノーザンテリトリーの中央砂漠地帯にまたがっていて、地域の総人口は約6,000人。その半数以上が24歳以下の若い世代だそうです。そんな彼らに、教育、健康、福祉の機会として、図書館や自動販売機、交通機関、アートの支援を行っています。

例えばここウルルのvoyagesリゾートでは、スクールホリデー等で働きに来る外来も多いですが(2025年現在、日本人も10人ほどいるそうです)、アナングの人々も積極的に雇用し、教育を行っています。

また、リゾート中心部にはアボリジナルアートのギャラリーがあり、その売り上げの60%はアーティストと、アートセンター、そしてコミュニティに還元されるそうです。土産物屋やカフェ・レストランのある広場でも、アナングの人々がアートを販売しています。

アートギャラリーの正面広場 ブッシュフード体験

リゾートではアボリジナルの人々の文化体験を披露しています。

例えば、ドゥジュリドゥという楽器の演奏や、荒野で咲く様々な植物(ブッシュフード)体験なども含まれます。オーストラリアでもシドニー等の都会で今、ブッシュフードの料理における効用が見直されているようです。この日はシドニーの料理人が訪れて料理への活用をティスティングしてくれました。

他にも、ドットアートのペインティング体験もできます。

アートギャラリーでのドットアート体験

voyagesは環境にも配慮した取り組みが行われています。

広大な大地で雨天もほとんどないことから、ソーラーパネルは非常に効率よく有効に設置されています。特に貴重なのは水。節水のため、ホテル内の水圧は低いのは仕方ありません。もちろん、ホテルのアメニティは10年前と比べるとすべて据え置き型に変わりました。

ウルルで体験するアクティビティの多くがvoyagesの運営が基礎になっています。コロナ前からあるfield of lightsはイギリスの芸術家 Bruce Munroによって創られた光の世界を楽しめます。これは50,000本のソーラーで発光する、環境に害の少ないアクティビティと言えるでしょう。

ウルル field of lights

コロナ後に新しく創られたアクティビティとして、ドローンとプロジェクションマッピングと音楽をもとに、アナングの伝説を光と音で体験するWintjiri Wiruもありました(日本語のツアーはありませんが、日本語の音声ガイドはあります)。

ウルル Wintjiri Wiru会場
ウルル Wintjiri Wiru(ドローンは風の影響で中止・・・)

最後に、ウルルのリゾートは荒野のオアシスのように、非常に多くの花や木を見ることができます。リゾートにいるだけで、2, 3日は十分に過ごせますし、ウルル・カタジュタ国立公園内に入らずとも、リゾート内の展望台からも壮大な景色を楽しむことができます(アイキャッチ画像)。

ここにいると、二万年変わらずに過ごしてきたアナングの人々の気持ちが、ほんの少しわかったような気がしてきます。

タイトルとURLをコピーしました