紀伊山地の霊場と参詣道(日本)

2023年1月撮影 熊野古道 青岸渡寺

Sacred Sites and Pilgrimage Routes in the Kii Mountain Range ( Japan ) OUV(ii)(iii)(iv)(vi)

2004年世界遺産登録 2016年軽微な範囲変更

■人々の自然と仏への信仰の道が、今では海外からの注目を浴びています

和歌山県・三重県・奈良県にまたがる紀伊山地の参詣道とそこに点在する神社寺院等の霊場23資産が世界遺産に登録されています。

登録範囲は非常に広く、その起源も様々ですが、霊場は大きく3つに分類されています。一つは自然崇拝を起源とする「熊野三山」で、「熊野本宮大社」「熊野速玉大社」「熊野那智大社」の3大霊場を持ち、熊野古道で知られる参詣道がそれらを結びます。

もう一つが「高野山」。かつて空海が開いた霊場「金剛峯寺」があり、そこに至る高野参詣道とともに日本仏教の聖地として知られます。

そして三つ目が「吉野・大峰」で、「金峰神社」「吉野水分神社」などの多くの神社仏閣をもち、修験道の拠点ともされてきました。その道は険しく、奥駆と呼ばれる修行の場である大峯奥駈道が含まれます。

日本古来の自然崇拝と、東アジアから伝播した仏教の思想が混ざり合った”神仏習合”の建築群と自然景観が今も当時と変わらずに残されていることから、その文化的景観が日本で初めて認められた世界遺産です。現代においても年間1,500万人もの人びとが参拝や登山を目的に訪れ、最近では欧米を中心とした海外からの観光客の注目を浴びています。

そこには、一部のマーケティングによれば、無宗教型スピリチュアル層(SBNR)=”目に見えない「心の豊かさ」を求めるけれど、宗教的ではない”人々が紀伊山地を訪れる傾向にあると言います。

■よみがえりの地、熊野古道

中世平安時代、上皇方が熊野詣でを繰り返すようになり、とりわけ白河上皇は複数回の熊野詣を行い、以降、上皇や法皇に伴われて貴族や数多くの人々が道を歩くようになっていったとされます。

熊野古道は田辺から熊野本宮に向かう中辺路(なかへち)、田辺から海岸線沿いに那智・新宮へ向かう大辺路(おおへち)、高野山から熊野本宮へ向かう小辺路(こへち)の3つのルートから成ります。

2023年1月撮影 熊野古道

中辺路ルートは特に現代においても人気のルートで、12世紀頃から設置された大阪の窪津王子~和歌山の多富気王子に至るまでの99の王子の一部を踏破することが目安の一つになっています。王子とは、プリンスではなく、この道を歩く修行者に対し、守護する神仏は童子の姿をとるという思想に基づくものであると考えられているそうです。実際、どちらかというとプリンセス、女性を象った像が置かれているところも多いです。

例えば、その難行苦行の道のりを終え、最初にたどり着くのが「熊野本宮大社」。その神域の入口とされる”発心門王子”、牛と馬に跨った女性を象った”牛馬王子”、そして最初に熊野本宮大社を望む”伏拝王子”の名は、やっとたどり着いた熊野本宮大社を伏して拝んだ、との由来の王子もありました。

中辺路ルートは、中世において、熊野本宮大社に参拝した後は、熊野川を小型の舟で新宮に下り、熊野速玉大社へと参りました。そして帰りも同じルートを辿り、熊野川を遡上して本宮へ戻り、都へと帰ることが一般的でした。

熊野の神々は自然信仰に根ざしていましたが、奈良~平安時代にかけては仏教・密教・修験道の聖地ともなり、神=仏であるという考え方が広まります。

そして平安時代末期には「浄土への入り口」として多くの皇族や貴族がお参りするようになりました。浄土へお参りし、帰ってくるということは、死と再生を意味します。そのため熊野三山は「よみがえりの聖地」として知られるようになりました。

熊野速玉大社は過去、熊野那智大社は現在、そしてまた戻ってくる熊野本宮大社は未来を示すのです。

2023年1月撮影 熊野本宮大社 閉館時間につき暗くなってしまった・・

本宮大社は熊野三山(本宮・速玉・那智各大社)の中心、全国に4700社以上ある熊野神社の総本宮です。主祭神は家津美御子大神(スサノオノミコト)。歴史を遡ると、古代本宮の地に神が降臨したと伝えられています。

写真左の大きな入母屋構造の屋根をもつのが、第一殿、夫須美大神(=イザナミノミコト)、中心にあるのが第二殿、速玉大神。そして右に切れているのが第三殿、家津美御子大神(=スサノオノミコト)を祀っています。

2023年1月撮影  熊野速玉大社

速玉大社の御神体は崖にせり出すような巨大なゴトビキ岩で、車で少し離れたところにあり、かつ階段を永遠を登らなければなりません。社殿のない自然信仰の神倉山の神に対して、社殿を建てて神々を祀ったことから、熊野速玉大社を新宮社と呼ぶそうです。

近年塗り直されたのか、色鮮やかな朱色の柱が美しく、八咫烏というより鳳凰のように感じました。

ここでは宮司さんに特別に祈祷を捧げてもらい、「地球のために、全ての祈りを」と題して、SDGsにもつながるお話を頂きました。

写真左手前が拝殿になっており、その奥に屋根だけが見えているのが第一殿(結宮)と第二殿(速玉宮)で、主祭神の速玉大神と夫須美大神の夫婦神が祀られています。

写真右手の大きな平入屋根は上三殿といい、家津御子大神を祀る証誠殿、天照大神を祀る若宮、高倉下命を祀る神倉宮の相殿を指すそうです。中には入れませんが、確かに3つの門が見えます。

2023年1月撮影 熊野那智大社

那智大社は高台に位置し、もともと那智の滝を中心にした神仏習合の一大修験道場でしたが、明治初期に神仏分離令によって、青岸渡寺と那智大社に分離しました。

主祭神は熊野夫須美大神(=イザナミノミコト)。

他の二山と違い、御瀧の神様を併せ祀っているため一柱多く神様を奉斎していることになります。元々は御瀧の近くで祀られていましたが、約1,700年前に現在の場所に遷りました。一方で御瀧の流れ落ちる麓には、熊野那智大社別宮飛瀧神社があります。

■旅の癒しは温泉!日本で唯一世界遺産に登録された温泉とは

本宮大社から車で15分ほど山を下りると、湯の峰温泉郷に着きます。

この町には温泉として日本で唯一世界遺産に含まれる「つぼ湯」に入ることができます!

チケットは公共浴場の番台でつぼ湯のチケットを買うことができますが、とにかく小さい小屋ですので、1人か1グループごとに30分という時間制限があり、あとは番号札をもらって外で待たなくてはなりません。朝6時の営業開始直後に向かっても3番目でした。

しかしそれだけに特別感は格別!1日に7回湯の色が変化すると言われ、天然岩をくりぬいた小さな天然の浴槽!小栗判官が蘇生したとされる伝説が隣に描かれていますが、そういわれると確かに病気も治る気分に。つぼ湯に入ると、小さなつぼ湯入浴証明書をもらえます。

冬に入る場合は温度に注意!つぼ湯は非常に高温で、冷めた体には熱すぎて、5分と入れませんでした・・・。

2023年1月撮影 湯の峰温泉
2023年1月撮影 湯の峰温泉 つぼ湯

余談ですが新幹線で帰る途中、大好きな柿の葉寿司の弁当を食べたのですが、吉野・奥吉野にとってはふるさとの味。柿の葉寿司の由来は、熊野と吉野を結ぶ東熊野街道は「さば街道」と呼ばれるほど流通が盛んだったそうで、熊野灘で水揚げされた鯖は熊野の道をはるか越え、薄く切ってご飯にのせ、山柿の葉に包んで重石を載せて熟成させて、食されたとのことです(中谷本舗のイザサ寿司より引用)。

和歌山では、おにぎりを高菜で巻いた「めはり」も名物でおいしかったですが、柿の葉寿司はやっぱり最高です。

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